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少女たちの性は「はたして」空虚になったか [社会]


少女たちの性はなぜ空虚になったか (生活人新書 241)

少女たちの性はなぜ空虚になったか (生活人新書 241)

  • 作者: 高崎 真規子
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 単行本


本日とりあげるのは高崎真規子『少女たちの性はなぜ空虚になったか』(生活人新書、2008年1月)。一言で言えば1970年代から1990年代までの少女たちの性をめぐる変化を記号論的に(出版物や音楽、流行や社会問題などを)分析したものである。おおまかな流れとしては1980年代を境にフリーセックス化が進行し、行為としてのセックスをはじめとするセクシュアリティ全般が軽薄なものとなっていった様子が記述されている。もちろん少女や性をめぐる近代以降の記述や分析は社会学でさんざんやられてきたわけだが、それが新書という形で一般の人々に再確認されることは意義あることだろうと思う。

さて内容自体にはさほど触れるべき点はない(それだけ「確認」という位置づけでは不満はないということである)。しかしながら私は、この本の書名に一言いっておかねば、と感じた。高崎氏は「少女たちの性はなぜ空虚になったか」と書名をつけた。これは「少女たちの性」が「空虚になった」ことを前提としてこの本が書かれたことを意味している。本文中でもこれは確認できることである。
「私が少女だったころ……今から三〇年あまり前のことだが、セックスは愛の証だった。いや、少なくともそう信じていた。いや違う、一応そういうことで世の中との合意が出来ていた。(中略)初体験は一生に一度の大変なことだという認識があった。(中略)しかも、セックス観は結婚観や家族観とつながっている。それらすべてが、時代とともに変わる中で、今のセックス観ができあがっているのだ。」(P8~10)
自分の少女時代の実感を語り、その時のセックス観は歴史的・社会的な影響の産物だと述べる高崎氏の言説と、先に挙げた書名とを考え合わせるに、「時代の変化が少女たちの性を空虚にした」と言いたいのではないかと読める。つまり昔の少女たちのセックス観はセックス自体に家族や結婚などの問題も付属しそれなりに意味があったが、現代の少女たちのセックス観には意味がない、とまぁここまで過激ではないにしてもそんな風に読むことができるのである。結局「現代の少女たちの性は空虚」という前提は揺るがない。
はたしてそうだろうか?
「現代の少女たちの性は空虚」だろうか?

高崎氏は自分の少女時代はセックスに「意味」があったと言うが、その「意味」は高崎氏が指摘しているとおり家族間や結婚観との関係から生み出されたものだ。つまりセックスする相手とは結婚し家族を作るという物語があったということである。こうしたセックス観・結婚観・家族観が近代資本主義社会の産物であることは論を俟たない。しかしどうだろう、少女はそうしたセックス観を受け入れていたに過ぎないのではないか?家父長的なあるいは資本主義の帰結としての自らの役割を押しつけられ抗う可能性も示されず受け入れるほかなかったのではないか?だとしたら、自らの「性」を自らの意志で(軽薄だと見られかねないような行動だとしても)遂行している現代の少女たちのほうがむしろ「主体性」を持ち自分なりの「意味」を掴んでいるのではないだろうか。それをはたして「空虚」と呼んでいいのだろうか。

もし、高崎氏のように「現代の少女たちの性は空虚になった」と述べるのなら、それは高崎氏自身が少女たちに意味を押しつけていることになる。それでは高崎氏が過ごした少女時代と主体性を奪われるという意味で同じことになるだろう。それでは高崎氏自身が「少女たちの性を空虚」にしてしまう危険性がある。だからこそ、ここで問題としなければならないのは「少女たちの性ははたして空虚なのかどうか」ということなのである。それは窮極的には当事者である「少女たち」に聞くのが妥当だし、彼女たちの自発的な発言に耳を傾けるほかないだろう。それも「少女たち」が自ら問題と感じるかどうか「空虚」と感じるか否かという根本的な地点にいきつくのであるが。しかしもしもそんな発言がなかったとしたら、それは少女たちにとって「性」が問題と感じられなくなってしまっているということかもしれない。だとしたらそれほどまでに何らかのイデオロギーが現代を支配している兆候ということかもしれない。

最後に、セクシュアリティ、ジェンダーの問題は一筋縄ではいかないと私は認識している。上記の意見はあくまで高崎氏の著書に対する反作用として見ていただきたい。こういう反論したくなってしまった、というわけだ。だから高崎氏の意見はこんな私の反作用を引き起こしてくれたという点で尊重すべきだと感じていることを付記しておく。
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